佐野隆一氏について〜佐野美術館の名刀コレクション「はじまりのはなし」展
私は佐野美術館へ、刀剣鑑定の勉強に10数年、毎月かよっている。
今回は、創立者の佐野隆一氏のことと、彼が築いたコレクションのなかから、特に名刀を中心に展示している「はじまりのはなし」展について少し書こうと思う。
佐野美術館というと、栃木県の佐野市にある美術館だと誤解されることもあるようだが、そうではなく、創立者の名前からとっている。
創立者の佐野隆一氏は、鉄鉱石からとれる鉄をさらに精練し鋼とするために不可欠な合金「フェロアロイ」を製造する「鉄興社」を大正13年に起業した実業家だった。
その後もさまざまに事業を拡大し、科学技術の新たな分野を開拓しようと努力を続けるなかで、昭和29年に徳川家伝来の刀剣を入手したことが古美術収集のきっかけとなる。
先人たちの創意工夫によって、鉄を強く美しく鍛え上げた日本刀に興味をひかれ、その全体像を理解しようと、各時代・各地の日本刀を網羅的に収集した。
作品の鑑賞を通じて先人の技や工夫にふれることで、自らの事業への活力としていたようだ。
そして、佐野氏は77歳の喜寿になった時、集めた美術品を寄付することに決め、ふるさとの三島市に美術館を建てた。
それが今につづく佐野美術館の歩みのはじまりである。
佐野美術館での刀剣鑑定の勉強は、佐野氏が網羅的に収集してくれたおかげで、各時代・各地の刀を実際に手に取り、自分の眼で観て、身体に染み込ませるように体験的に学べる、たいへん贅沢な講座だ。
毎回驚きがあり、新たな発見もあり、まったくあきない。
そんな普段の鑑定講座で眼にしている刀たちも、今回の展覧会で、美術館の展示ケースのなか明かりをあてられ、多くの人に見れれることで、よりいっそうキラキラ輝いているように思えた。
次回は、いくつかの刀に焦点を当てて書きたいと思う。
参考 「隆泉66号」「佐野隆一を知る」