中村泰三郎先生と戸山流

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令和四年六月二十五日、東福院道場にて、『型、組太刀、試斬演武を通じて伝える、陸軍戸山学校の軍刀操法「戸山流」の神髄』と題して、

演武と講演を行いました。

今回は顧問の竹内義順剣士にも参加いただきました。

私は抜刀道を創始された中村泰三郎先生の孫弟子にあたり、竹内顧問は先生の直弟子です。

私と竹内顧問は同じ道場で修行したことはなく、知り合いでもなかったのですが、数年前、山岡鉄舟の命日に菩提寺の全生庵で行われた法要で、たまたま偶然めぐりあいました。

こういう出会いを「邂逅」と言うのでしょう。

鉄舟が結びつけてくれた縁だと思っています。

講演はこの話からはじまり、戸山流とはどんな流派かや、中村先生の人となりなどを、先生のそばで修行された竹内顧問のお話を聞きながら、二人で対談しました。

いくつか印象的なことを抜き出すと、ひとつは、三島由紀夫が自衛隊に乱入し、決起を求める演説をした後、腹を斬って自決しましたが、その時の介錯に使った刀が、以前、中村先生が数年間、稽古に使っていた「関の孫六(後代 兼元)」であったことです。

先生の著書によると、「(三島由紀夫の介錯は)森田は二度失敗し、神奈川大学の剣道の練達者である古賀がかわり、古賀の三刀目で斬首、返す刀で森田を介錯した」とあります。

師の首を落とすとき、我々の想像を超える感情が去来したでしょう。

森田の失敗を責められませんが、二度の斬り損じはいただけません。

武士道の価値観で言えば、介錯は武士の誉れです。

立派に首を落として、切腹する人間の痛みを減じ、成仏を助けるのが介錯の役割です。

三刀目で斬首した古賀は、その役割を立派に果たしました。

やはり、剣道の練達者だけあって、手の内が決まり、胆力もあったのでしょう。

ふたつめは、先生が常々おっしゃっていた、邪道的な真剣斬りは禁止の話です。

少し長いですが先生のご著書より引用します。

「少々真剣斬りをおぼえてくると、なかには素人受けするような派手な斬り方、つまりは邪道的な斬り方をしようとする者が現れてくる。こうした斬り方は、型の教えもまったく無視し、ただ物を斬るだけ、ただ見栄えのよさだけを追求したものであり、著しく日本刀精神に反するものである。」

これにつづいて先生は、江戸期の剣客である島田虎之助の「剣は心なり。心正しからざれば 剣また正しからず。剣を学ばんと欲する者は、まず心より学べ。」との言葉をあげて、邪道に陥ることを戒めておられます。

先生のこの教えに、私は全面的に賛成します。

真剣斬りの問題点は、いともたやすく邪道に陥ることで、この点を真摯におさえないものは武道ではなく、真剣で斬る大道芸であり、お遊戯的な自己満足にしかなりえないと思っています。

人にはそれぞれ考え方があり、器量の差もありますから、邪道でしか生きられないこともあるのかもしれません。

しかし、武道は「道」であるかぎり、道の真ん中を堂々と歩むのが醍醐味で、知ってか知らずか、道の端ばかりを歩いていると、気づけば道からはずれていた、なんてことにもなりかねません。

正しい道、すなわち正道のど真ん中を歩むのが武道家の矜持ではないでしょうか。

講演では、このような固い話しもしつつ、せっかくの機会ですから、皆さんに真剣を手に持ってもらう時間もつくりました。

刀を手に持つと、理屈ではなく、さまざまなものが刀から直接伝わってきます。

今回は先入観なしに、伝わってくるものを感じてもらいたいため、刀を手に取る作法だけを簡単に教えて、それぞれ鑑賞してもらいました。

後で感想を聞くと、皆さん感じ入るところが多かったようで、そのしなやかな感性に共感しました。

また希望者三名に、居合刀を実際に振る体験もしてもらいました。

刀をまっすぐに振るのは意外に難しく、皆さん苦労していましたが、気合の声もだして、素振りをかさねると、だんだんエネルギーが渦を巻いてきて、細胞が活性化していくのが見えるようで面白かったです。

刀を手に持ち、居合刀で素振りしてみるというのは、通常の道場の見学・体験でも行っているので、興味のある人は申し込んでみてください。

演武は、戸山流型、組太刀、そして試斬と盛りだくさんでしたが、いつも稽古をしている道場であるのと、参加した皆さんの氣が良かったので、十分な演武ができました。

この演武と講演はGシードの主催で、私が顧問として協力する「もののふの会」の皆さんにも特別に参加していただきました。

「もののふの会」は、「教育によって人格を磨き、人間力を高め、日本人としての自覚と誇りを取り戻す」ために全国の教師が中心となって立ち上げたばかりの会です。

快く参加を許してくれた Gシードの長谷川代表へ感謝するともに、日本人の気概を持って、志し高く立ち上がった「もののふの会」の発展を祈念します。

今後も、日本刀文化と武士道の素晴らしさを実践的に伝えるため、このような演武と講義の場も増やしていきたいと思います。

ご興味ある方は、お気軽にお問い合わせください。

日本武徳院 

師範・剣士 黒澤龍雲

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